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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和54年(少)1846号 決定 1979年8月13日

少年 R・S(昭三五・四・二生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(審判に付すべき事由)

第一  少年は決定の除外事由がないのに、昭和五四年四月一日午前五時三〇分ごろ、北九州市○○区○○町元○○○株式会社跡地の駐車場横の道路上において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン約〇・〇三グラムの水溶液を自己の体内に注射しもつてこれを使用したものである。

第二  少年は昭和五四年四月二六日当庁において、覚せい剤取締法違反の罪により福岡保護観察所の保護観察に付すべき旨の決定言渡しを受け、同庁の保護観察下にあるものであるところ、

1  昭和五四年六月初旬ごろから、かねて顔見知りであつたヤクザAの輩下の覚せい剤の密売人の某男と接触を繰返えすなど犯罪性のある者と交際し、

2  昭和五四年六月初旬ごろ、北九州市○○区内のパチンコ店「○○○」のトイレ内で覚せい剤を使用した外数回に亘り覚せい剤を使用した旨少年自ら供述しており、鑑定を経ていないので、未だ非行事実があつたと断定はできないものの、その疑いは極めて濃く、自己の徳性を害する性癖を有するものというべく、

3  昭和五四年七月一一日北九州市○○区○○町の路上において、半狂乱の状態で通行人に誰れ彼れの区別なく因縁をつけて暴れ回り、偶々これを発見した父親がこれを制止しようとするや、父親に組みついて転倒させるなどの危険な行為に及び、

4  昭和五四年七月五日から本件により同行状を執行されるまでの間無断家出し、保護者の正当な監督に服さず、又正当な理由なく家庭に寄りつかないものであつて、この儘放置すれば覚せい剤取締法違反、暴行、傷害等の犯罪に陥る虞れのあるものである。

(法令の適用)

第一の事実覚せい剤取締法一九条、四一条の二、一項三号

第二の事実少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ

(処遇決定の理由)

1  少年は既に二回の少年院生活を経験しているものであるが、施設内においては誠に見事な適応ぶりを示しながら、社会内処遇に移ると忽ちにして破綻してしまうということを繰返して来ている。前件の観護措置(昭和五四年四月)の際も、鑑別所内での生活ぶりには自ら「内観」を行うなど極めて真摯なものがあり、審判時にも「やつと自分の弱さをはつきり自覚できた。今度は大丈夫と思う」などと述べていたのであるが、いくばくもなく本件に到つているのである。

以上の経過からすると所謂「監獄太郎」に近似したものが認められ、すでに保護処分の限界を超えているという感じがしないでもない。

2  然し乍ら、少年には価値観の歪みは比較的少く、なんとか立直りたいという意欲も認められないではなく、寧ろ立直りたいと願いつつ果せないことから来る葛藤状態が続き、その葛藤から逃避しようとして破綻を繰返えして来ているやにも考えられる。これらの点からすると未だ保護処分の限界を超えているとはいい難いものと考えられる。

又本件第一の非行は前件(昭和五四年四月二六日、覚せい剤取締法違反事件、保護観察決定)と併合罪の関係にあるものであり、然も前件審判時既に判明していた為これを考慮に入れて審判がなされているものであり、又第二の事実は虞犯であり、少年法二〇条の決定には馴染まないものと考えられる。

3  少年の覚せい剤使用は未だ期間は短く、又前記の如き葛藤状態にあつた為か、覚せい剤に対しても及び腰のような姿勢があつたようであり、それ程深い嗜癖状態に陥つているとは思えない。然し、上に述べた「半狂乱の暴行」は恐らくは覚せい剤による妄想、幻覚等の結果であろうと考えられ、在宅処遇は無理と考えざるを得ない。以上の諸点から少年を相当期間少年院に収容して厳格な生活訓練を施し、極度の意思の弱さを幾分なりとも矯正させることに努めるのを相当と認め、又少年院の種別については少年の非行性、性格の偏倚の極めて大きいことからして特別少年院とするのを相当と認め、少年法二四条一項三号少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 助川武夫)

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